コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』、ジョージ・エリオット『ミドルマーチ』

5/1 コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』読了。

6/28 ジョージ・エリオット『ミドルマーチ』全4巻読了。

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『地下鉄道』 時代は南北戦争の少し前、黒人の奴隷少女コーラを主人公にした物語。南部の奴隷州から北部の自由州へ、黒人を逃がすために実在した秘密組織の名前が「地下鉄道」で、隠れ家を駅、逃亡奴隷たちを積み荷と暗号で言い換えることで、追手の目を欺く工夫をしていたそうだ。やっと地上に線路が敷かれ始めたばかりで、地下にトンネルを掘る技術なんてない、そんな時代に「もしも本当に奴隷を逃がすための列車が地下を走っていたら…」という虚構の元に、この小説の逃亡奴隷たちは本物の地下鉄道に乗って自由への旅を続けていく。黒人に対する暴力や虐待の描写は読むのが辛くなって目を閉じたくなるけれど、農場から逃亡することを決意したコーラは無事に自由州にたどり着けるのか、執拗に追ってくる奴隷狩り人から逃げることができるのか、息をつかせぬ展開におしまいまで一気に読んだ。地下に本物の鉄道が走っているという大きな嘘以外は、非常にリアルに奴隷制度下で黒人たちが受けてきた苦難の歴史を描き、自由への強い想いと奴隷解放のために戦った人々の姿にもまた胸を打たれる小説だった。

『ミドルマーチ』 英国の作家メアリー・アン・エヴァンスが男性名ジョージ・エリオットペンネームで執筆した小説。19世紀初頭のイングランド、架空の街ミドルマーチを舞台に、住人たちのさまざまな人間模様が描かれるが、1巻目から登場人物たちの未来は決して平穏ではないだろうなと予感させる。この小説はドロシアという女性の生き方、人生の選択がひとつの柱になっていて、ドロシアの最初の結婚と夫との死別、その後の再婚までを大きな流れとして、そこに係わる多彩な人々の生き様が辛辣にまた時にはユーモアも感じさせる文章で綴られていく。作中で過去の悪事が暴かれたり保身の嘘が明るみに出る人たちも、そんな人間の持つ弱さや狡さは誰もが思い当たる部分を含み、ただ罪を糾弾するような形では描かれない。人間の行動・心理に対する作者の秀逸な洞察がそこここにあり、赤線を引いて何度も読み返したくなるような文章はもちろん翻訳された日本語で理解しているわけで、今回も翻訳家の方の仕事に大いに助けられながら読み進めた。女性の幸せ=結婚という時代に、それだけが人生のすべてではないこと、自分自身の望みを大切にして生きることの喜びを伝え、名もなき一人一人の人生がそれぞれ特別で代えがたいものであると伝える。 読後感は爽やかで、人間賛歌であり人生賛歌と感じるフィナーレだった。