『室温~夜の音楽~』

629 世田谷パブリックシアターで『室温~夜の音楽~』 作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 演出:河原雅彦

【あらすじ】
田舎でふたり暮らしをしているホラー作家・海老沢十三(堀部圭亮)と娘・キオリ(平野綾)。
12年前、拉致・監禁の末、集団暴行を受け殺害されたキオリの双子の妹・サオリの命日の日に、様々な人々が海老沢家に集まってくる。巡回中の近所の警察官・下平(坪倉由幸)、海老沢の熱心なファンだという女・赤井(長井短)。タクシー運転手・木村(浜野謙太)が腹痛を訴えて転がり込み、そこへ加害者の少年のひとり、間宮(古川雄輝)が焼香をしたいと訪ねてくる。
偶然か…、必然か…、バラバラに集まってきたそれぞれの奇妙な関係は物語が進むに連れ、
死者と生者、虚構と現実、善と悪との境が曖昧になっていき、やがて過去の真相が浮かびあがってくる…。 

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2001年の初演の舞台は観ていなくて21年ぶり再演の今回が初見。非常に引き込まれる舞台だった。1988年に起きた女子高生コンクリート詰め殺人事件がベースにあることには観ていてすぐに気付いたのだけど、殺された少女の13回忌の命日に集まったひとたちの隠していた秘密が次々に暴かれていく一日が描かれる。目に見えている姿とは別にそれぞれが抱えた裏の顔は、一様に陰惨で非道で不実で、そのギャップを可笑しいと笑っていいのか、ここでうっかり笑ってしまうことは不謹慎なのか、微妙なバランスの上に立っている作品だ。前半ではコメディ的な要素も見えるけれど、物語が進むに従って人間の業というか底知れない悪意が否応なしに突き付けられる展開。観客によって受け止め方は違ってくると思うけれど、どこかしら冷めた空気の中に見え隠れする人間のどうしようもなさに対する視線が面白くもあり恐ろしくもあると私は感じた。坪倉由幸と浜野謙太が印象に残る好演で、作品の不穏な空気を煽るような在日ファンクの生演奏もとても良かった。