モチロンプロデュース『阿修羅のごとく』

9/30 シアタートラムで『阿修羅のごとく』 作:向田邦子 脚色:倉持裕 演出:木野花

あの伝説のTVドラマをこのメンバーで舞台化、ということで仮チラシを見た瞬間から絶対に観に行きたいと思っていた公演。予想通りチケットはあっという間に完売で、もうこれは無理だなと諦めていたのだけど、本当に運よく当日券のキャンセル待ちでチケットを取ることができた。四方を客席に囲まれたセンターステージで、舞台上に置かれた大小のシンプルな箱ものがシーンによって机や椅子として使われる。真四角の舞台の各コーナーが4姉妹それぞれのテリトリーになっていて、私の席(南ブロック)から見て手前の下手が次女の巻子(小林聡美)、手前上手が四女の咲子(夏帆)、奥の下手が三女の滝子(安藤玉恵)、奥の上手が長女の綱子(小泉今日子)という感じだ。舞台中央は姉妹の実家や喫茶店、公園など個人のスペース以外の場所になる。舞台の周囲(客席とのあいだ)も街路として使われるのはちょっとNODA・MAPの「贋作 罪と罰」を思い出した。黒衣の格好をしたスタッフが転換を行なったりお囃子や柝が入ったりと歌舞伎的な要素があちこちに取り入れられている。上演時間は2時間、キャストは6人ということで、ドラマ版のどのシーンどの台詞を残すかはかなり話し合いを重ねたのだそうで、結果大幅なカットはありつつも単にダイジェストということではなくて「ああ、まさに“あの”阿修羅だ」と感じる舞台になっていた。不倫や浮気に対する目線や女性が担っていた役割など確かに昭和の価値観がベースになっている物語ではあるけれども、4姉妹の関係に絞って描いたことで女性の生き方を現代に問うものとして成功していると思った。誰かを簡単に型とかタイプに押し込めて判断しがちな世の中で、ひとりひとりの女性にはそれぞれの思いがあり願いがあり、枠からはみ出す部分ももちろん持っていて、私は私だ、一括りにされてたまるかという小気味よさが感じられて痛快だ。キャスト陣の好演は言わずもがなだけれども、小林聡美の巧さにはまさに舌を巻く思いで、本当に良い女優さんだなあとつくづく思った。安藤玉恵の滝子もとても良くて、岩井秀人とのやり取り(劇中のフラメンコシーンも含めて)の絶妙な間合いには感情が擽られっぱなしだった。そして綱子の不倫相手(貞治)と巻子の夫(鷹男)の二役を演じた山崎一、滝子の恋人(勝又)と咲子の恋人(陣内)の二役を演じた岩井秀人、2人の男優はその演じ分けに加えて怒涛の早変わりの連続を見事にこなす大活躍。隅から隅まで楽しめる舞台だった。観られて本当によかった。