八月納涼歌舞伎 第二部『安政奇聞佃夜嵐』

8/11  歌舞伎座第二部から『安政奇聞佃夜嵐』

安政5(1858)年の初冬、人足寄場で苦役の日々を過ごす青木貞次郎(松本幸四郎)と神谷玄蔵(中村勘九郎)。元は甲州の侍であった青木は、武田信玄埋蔵金を巡り殺された両親の仇を捜しています。その思いを知る神谷は青木を焚きつけ、島抜けを計画。二人は佃島から隅田川を渡り、泳ぎが苦手な神谷も青木に助けられ、ともに脱獄を果たすのでした。路銀調達のため悪事を重ねる二人でしたが、神谷と別れ故郷甲州へと向かった青木は笛吹川の渡し場で渡し守の義兵衛一家と出会い…。

明治の初めに実際に起きた脱獄事件をもとに、大正3(1914)年に古河新水(十二世守田勘弥)が時代背景を安政期に改めて書き下ろした作品との事。初演時の主役コンビは初代吉右衛門と六世菊五郎、その後に二世松緑と十七世勘三郎、昭和62年(1987年)には現・菊五郎さんと二世吉右衛門さんによって演じられたという。今回久し振りの上演でそれぞれの役を演じるのは幸四郎さんと勘九郎さんだ。最初はこの配役は逆なのではないかと思ったのだけど、親身に世話を焼きながらも実は青木の親を殺した犯人である神谷の小憎らしい悪党ぶりを勘九郎さんが、自分の娘の死を嘆き悲しみながらも親の仇を打つため奔走する青木のまっすぐさを幸四郎さんが、各々魅力的に立ち上げている。島抜けした2人が川を泳いで逃げる場面は舞台いっぱいに浪布を広げて、ほとんど台詞はない中で2人の間合いから醸し出される何とも言えない可笑しみに、とても短い場面なのだけどもっと観ていたいと思った。青木が神谷を倒して見事に親の仇を打っておしまい、とはならずに、島抜けの罪で追われていた2人が捕まって、互いに悪態をつきながら引かれていく幕切れは予想外でありつつも、その言い合いがまた可笑しくて、2人の相性の良さを存分に楽しめる舞台だった。