『てなもんや三文オペラ』

6/15  PARCO劇場で『てなもんや三文オペラ』 作・演出:鄭義信 原作:ベルナルト・ブレヒト 音楽:クルト・ヴァイル

1956年(昭和31年)、秋、早朝。猫間川沿いの川岸には、トタン屋根のバラックが肩寄せあっている。その目と鼻の先、川向うに「大阪砲兵工廠」跡地が見える。かつてそこはアジア最大の軍事工場だったが、アメリカ軍の空爆で廃墟と化した。数年前に勃発した朝鮮戦争の「朝鮮特需」で鉄の値段がはねあがると「大阪砲兵工廠」 跡地に眠る莫大な屑鉄をねらって有象無象の人々が次々と集まってきた。彼らは、いくら危険だろうが、いくら立ち入り禁止の国家財産だろうがお構いなし。目の前のお宝を指をくわえて見ている阿呆はいない。夜な夜な猫間川を越え、屑鉄を掘り起こした。そんな彼らを世間の人たちは「アパッチ族」と呼び、彼らの住む場所を「アパッチ部落」と呼んだ―――
アパッチ族」の親分・マック(生田斗真)は、屑鉄のみならず、さまざまなものを盗む盗賊団を組織していた。恋人のポール(ウエンツ瑛士)と結婚式を挙げるマックのことを、ポールの両親で「乞食の友商事」の社長ピーチャム(渡辺いっけい)と妻のシーリア(根岸季衣)は疎ましく思い、警察署長タイガー・ブラウン(福田転球)を脅し、なんとかマックを逮捕させようとするが…。マックの昔なじみの娼婦ジェニー(福井晶一)と、ブラウンの娘ルーシー(平田敦子)をも巻き込み、事態は思わぬ方向へとすすむ…。

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シェイクスピアの原作を翻案してオールメール大阪弁で演じられた2020年の鄭義信演出『泣くロミオと怒るジュリエット』がとても良かったので、その路線上にあると感じられる今作も楽しみにしていた。マックの恋人を女性のポーリーから男性のポールへ変更し、ジェニーは女性なのか男性なのかどちらとも取れる描かれ方で、ブラウン署長もあきらかにマックに惚れていて過去には恋人関係だったのかもしれないと想像させる。とにかく男性にも女性にもモテモテのマック役に生田斗真がとてもよくはまっている。平田敦子演じるルーシーと、ウェンツ瑛士演じるポールが、マックを巡ってバトルを繰り広げながらも最後には同じ男を愛した者同士として心を通わせる展開も良い。俳優陣が歌うシーンもふんだんにあり(難しい曲が多くてけっこう大変そうだった)コミカルで笑えるところもたくさんあって、途中まで舞台は楽しく進むのだけど、今作では原作と違って逮捕されたマックに恩赦は与えられず、マックは絞首刑に処せられて命を落とす。マックは戦時中に敵国の若い兵士を殺してしまったことを深く悔いており、自分が犯したその罪を償うために自ら絞首刑を受け入れると言うのだ。劇中で戦争の悲惨や無常が語られるのは鄭義信の舞台らしいところだけれども、今作はよりはっきりしたメッセージとして観客に訴えかける物語になっていて、ラストシーンで戦争で命を落とした兵士たちの姿をマックとともに描くことで争いのない世界を願う作家の強い思いが伝わってくる幕切れだと思った。