『親愛なる同志たちへ』『パリ13区』

5/4 新宿武蔵野館で『親愛なる同志たちへ』 ヒューマントラストシネマ有楽町で『パリ13区』

『親愛なる同志たちへ』 1962年にロシア南西部の街ノボチェルカッスクで起きた労働者の大規模ストライキ。物価の上昇と食糧不足、賃金カットに対する不満が高まった結果だったが、党幹部たちは労働者の国で労働者のストライキなどあり得ないと群衆を暴力的に鎮圧。多数の死者を出しながらソ連の崩壊まで30年間隠蔽されていたという事件を映画化したものだ。党の市委員会のメンバーで党員の特権を利用して贅沢品を手に入れるなどしていたリューダは、ストライキに娘が参加していたかもしれないと知り、娘を探して銃撃によるパニックが起きた混乱の中を駆け回る。リューダの党への忠誠心が娘の身を案じるうちにしだいに揺らいでいく様を、ソ連に生まれ育った監督が共産主義の理想と現実を辛辣に見つめる視線、真実を求めようとする強い信念と怒りとともに描き、昨今の不穏な情勢も否応なしに浮かんできて深々と胸に迫る映画だった。

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『パリ13区』 タイトルにあるパリ13区は高層住宅が連なる再開発地区で、アジア系移民も多く暮らしている独創的で活気に満ちた現代のパリを象徴するエリアだと公式サイトには紹介されている。登場人物たちも台湾系、アフリカ系など多様性に満ちていて、それぞれがその場限りではない愛を求めて悩み葛藤する姿を描いている。出会ってすぐに身体でつながることは簡単でも、相手に心を許して自分をさらけ出し、また自分にとって都合のいいようにではなくありのままの相手を受け入れることもなかなか難しい。赤裸々なシーンも多いけれども、本人が自覚していなくても本当に気持ちで繋がることができる相手を求める切実な気持ちが心の底にはあり、そんな出会いは決して当たり前ではなくとても特別なことなのだ。女性3人と男性1人の関係がどう展開するのか興味深く見守り、傷つきながらも最後にはそれぞれが自分を偽る必要のない相手と結ばれて、いろいろと辛口な表現がありつつもロマンティックな結末だと思った。

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