午前十時の映画祭『未来世紀ブラジル』

10/20 TOHOシネマズ日本橋で『未来世紀ブラジル

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1985年の公開からもう36年経つのか…。監督テリー・ギリアムがやりたいことを詰め込んだ悪夢と狂気のディストピアジョージ・オーウェルが「1984年」で描いた恐怖を思い起こさずにはいられない。個人情報が国家に完璧に管理された世界。テロリストの排除が目的だと説明されるけれど、個人を徹底管理するために実はテロ行為を行なっているのは国家なのではないかという疑問が拭えない恐ろしさ。荒廃した街中にも屋内にも這い回る不気味なダクトは、管理する者と管理される者の貧富の格差も表している。セットや美術は今見るとお金を掛けている風ではないのだけど、そのごちゃごちゃとしたチープさが管理される人々の非常に貧しい生活や心身の疲弊に繋がっているように今回あらためて感じた。主人公のサムを演じたジョナサン・プライスの困ったような表情と憎めない愛嬌がとても良い。修理工のタトル役はロバート・デ・ニーロで(やたら楽しそうに演じている)出てきた時にああそうだったと思い出した。美容整形狂いのサムの母親、責任能力皆無の上司、高圧的なレストランの支配人などなど、登場人物たちはあきらかにどこかがおかしくて歪んでいて、笑ってみているうちに段々うすら寒い気持ちになってくる。恋した女性ジルを助けようとして情報局に捕まったサムが、拷問を受けそうになったその時にタトルが助けに現れ、逃げ延びたサムはジルと二人で逃避行の旅に出る、というハッピーエンドは拷問中に気が狂ってしまったサムが見ている幻影だったという悲しい結末。テリー・ギリアムの描くコミカルでシニカル、美しくて残酷な世界をまた映画館で観られてよかった。