イキウメ『外の道』

6/15 シアタートラムでイキウメ『外の道』 作・演出:前川知大

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どこからかゴオオオオーンという音が日に何度も鳴る街で、二十数年ぶりに偶然再会した同級生の男と女。語り合ううちにそれぞれが不可思議な問題を抱えていることが分かってくる。男はある手品師との出会いから世界を新しい目で見ることができるようになり、妻が最近とても美しくなったのは浮気をしているからだと疑っている。女は品名に“無”と書かれた宅配便を受け取り、何も入っていない空っぽの段ボール箱から家中に拡がっていく“無”がもたらす闇に取り込まれている。答えがはっきり示されるわけではなく、正体不明の不安に襲われてゾクゾクするうすら怖い話なのだけど、そのように見える人にしか見えないものというのは、想像から生まれたものとも言えるのだ。男は新しい目を持った気がしていて、女は“無”がそこに黒い塊として在る気がしている。本人たちにとってそれは本当で現実だけれども、周りの人たちはその言動を理解することができないから、世間と二人の距離はどんどん遠くなっていく。そして今までと同じ生活ができなくなった二人は“無”の闇の中に入っていく決断をする。“無”が何を表わしているのか私には最後まで分からなかったけれど、場内が真っ暗になる長い暗転の中で聞こえてくる、どうせ暗闇の中で想像するならば少しでも美しいものを…という台詞に、すべてが失われた場所から見える小さな光のようなものというか、想像する力は哀しみや辛さを超えていく拠り所にもなるのだという思いが残る結末だった。