オフィスコットーネプロデュース『墓場なき死者』

2/3 下北沢の駅前劇場で『墓場なき死者』 作:ジャン=ポール・サルトル、演出:稲葉賀恵

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 ドイツ占領下のフランスで、対独協力者の民兵に捕らえられたレジスタンスの兵士たちは、果たして拷問に耐えられるのか、口を割って相手に情報を与えてしまうのか。非常に張り詰めた空気の中で兵士たちの葛藤や諍いが描かれていく。作中に何度も「自尊心」「勝ち負け」という言葉が出てくるのだけど、拷問を受けて誰が叫び声を上げ誰は叫ばなかったかにこだわり、叫んだ自分を恥じて周りにどう思われているかを気に病み、というふうに、拷問され殺されても口を割らないと誓うその目的が「フランスの自由を取り戻すため」というレジスタンスの大義から、他者から軽蔑されたくないダメな奴だと思われたくないという個人のレベルに落ちていく過程がものすごく残酷でまたリアルだと思った。サルトルが書いたこの戯曲が初演されたのは1946年だそうだけど、この舞台から伝わる承認欲求や自他を比較しての優越意識などは、現代人に通じるものとして重たく響いてくる。辛い内容だけど否応なしに引き込まれる力を持った作品だった。